TOP
学校リスクマネジメント推進機構|学校と教職員向け危機管理相談
学校リスクマネジメント推進機構

ニュースレターWEB


いじめの事故が生じた場合の調査方法や報告義務とその範囲について

今回は、学校でいじめが発生し、それを苦に生徒が自殺してしまったという場合、保護者から「真相を究明したい。状況を報告してほしい」との要求に、学校としてはどう対応したらいいのでしょうか。当機構の顧問弁護士の梶智史氏にうかがいました。

重大事態への対処とは何をすればいいのか


平成25年に成立した「いじめ防止対策推進法」第5章(重大事態への対処)第28条では、
「速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする」と記されています。これを根拠として、保護者が、調査・報告を要求し、その内容が不服だとして、調査・報告義務違反を請求された場合には、損害賠償義務を負うおそれがあります。

どの程度の調査が必要であるかについては、過去の裁判例を見ると、生じた結果によって異なるものと思われます。ある裁判例では「生徒の自殺が学校生活に起因するのかどうかを解明可能な程度に適時に事実関係の調査をし、それを報告する義務を負う」(私立中学校の生徒が自殺した事件について、自殺原因を調査し、両親に報告する義務を怠ったとして、両親が損害賠償請求をした事案)とされています。

ただし、別の裁判例では「被害者本人や他の生徒に対する教育上の配慮をする必要があることから、その調査内容及び方法については、学校の設置者の裁量に委ねられている」(児童が、公務員であるE教諭による違法な指導により多大な精神的苦痛を被り、自殺行為に至ったことについて、学校設置者に調査報告義務違反があったとして、損害賠償を請求した事案)とされています。

つまり、学校側の調査報告が、保護者から見て不十分だと思われても「教育上の配慮からこのようにしました」と合理的な説明をすることができ、そのことについて記録を残してある限りは、学校側は、責任を問われない可能性が高いのです。
実際、過去の裁判例を見ても、保護者からの請求は「棄却」、つまり学校には責任なしとされているケースが多く、請求が「認容」されるのは、よほど学校の対応が悪かった場合に限られています。

まず、調査の目的は何かを明確に


学校でいじめに起因する重大事態が起こった場合、どのように調査をすればいいのでしょうか。
まず大切なのは、調査の目的を明らかにすることです。犯人を追及するためではなく、「現に起きているいじめに対処すること、また、今後の発生を防止するために調査をする」という視点を忘れてはなりません。

学校は警察ではありませんし、いじめの加害者や原因を調査することが、必ずしも被害児童・生徒や加害児童・生徒の教育にとって有益とは限りません。ですから、「調査の結果、いじめと評価できる事実は確認できなかった。しかしながら、被害生徒の様子を継続的に確認していくことを予定している。具体的には……」などという調査結果報告書となることも十分あり得ます。

したがって、上述のようにいじめと評価できる事実が確認できず、また、加害生徒の特定ができなかったとしても、過度に調査を継続することまでは必要ないと思われます。

体的な調査の方法


次の3つの方法があります。

(1)客観的証拠の収集
いじめについて書面の証拠があることはまずないと思いますが、掲示板やTwitter等に対する書き込み、LINE、メールのやりとり、インターネットにアップされた写真や動画は証拠になります。

(2)質問票の利用
児童・生徒へのアンケートです。しかし、質問項目はよく考えないと、全く意味のない調査になってしまいます。たとえば「あなたはいじめの事実を知っていましたか、はい、いいえ」のような質問ではおそらく「いいえ」の回答が大量に集まるだけでしょう。

(3)ヒアリング
児童・生徒や教員にヒアリングをします。当事者と第三者がいる場合、第三者からヒアリングをするのが普通です。なぜなら、当事者が嘘をついた場合、先に第三者から情報を得ていれば、「それは違うのではないか」と指摘することができるからです。

ヒアリングの際に、録音をすることは違法ではありません。しかし、一般には公開しない前提でヒアリングをしている場合、その音声データを公開したり裁判で証拠として提出することは、たとえ違法ではなくても、学校のイメージダウンにもなることからおススメしません。ヒアリングした内容は、メモ、供述録取書(供述者の言葉を第三者が記録したもの)、供述書(本人が記録したもの)のいずれかで記録します。供述書が証拠としては一番いいのですが、学校の場合、児童・生徒に供述書を書かせられるのかという問題があります。最初に述べたように、調査の目的は犯人の追及ではないので、メモでもかまわないと思います。

調査報告書の書き方は、弁護士に任せていただいても良い部分ではありますが、もっとも重要なのは、「事実認定」と認定した事実を前提とした「評価」です。「このような事実があり、こういう理由でこう判断した」ということを書かなければなりませんが、収集した証拠等の評価を適切に行う必要性があるため、難しい作業となります。
教育機関であるという性質から、疑わしい事実についてはあえて「証拠からは確認できなかったが、被害生徒の言い分からすれば、被害生徒が精神的苦痛を感じる事実が全くなかったと判断することもできない。」などという書き方も許容されると思われます。



この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。


03-3221-5657            

受付時間:  月~土  9:00 ~ 21:00

(祝日、年末年始、休業日等除く)

menu