深刻化する教職員の不祥事を考える
◆教職員の不祥事と再犯性
令和2年8月末日。度重なる教職員による性暴力被害が深刻化していることを受け、文部科学省は新たな方針を打ち出しました。わいせつ行為で教員免許を失っても3年を経過すれば再取得が可能とされていた現行法を改正し、制限期間を5年に延長することを検討しているとのことです。性暴力を振るう教職員が学校現場にいること自体、許されることでは無いと思いますが、それ以上に教職員として復帰可能となるまでのプロセスを時間の論理を中心に決めて良いものなのか否か、更に議論が成されていくかもしれません。
こういった教職員による不祥事は、個人の処分で済むという問題ではありません。1人の教職員の愚かな行動によって、他の教職員の尊厳や、学校全体のブランド価値、教職員と児童生徒等、また保護者との間で構築された信頼関係をも失墜させてしまう恐れがあることを私たちは決して忘れてはならないと思います。
つまり教職員の不祥事とは、最も回避しなければならないリスクの1つであるということです。もしあなたの周りに、わいせつ事案を発生させそうな傾向(ハザード)のある教職員が居るのであれば、看過してはなりません。ここで見て見ぬ振りをするということは、リスクを容認したということになります。リスクマネジメント上の「リスクの容認」とは、想定されるリスクの発生頻度が極めて低い場合や、危機発生時の影響度が極めて少ない場合等に用いられる手法で、「顕在化しているリスクに対し対策をせずに受け入れる」ということを意味しています。従って、性暴力等の問題に対し「容認」という方法をとることは危険で、適格ではないということは理解に難くないはずです。まずは性暴力等の不祥事が引き起こされる原因(特性・心理的要因)について、管理職が理解し、スクールカウンセラーや専門機関の見解のもと、早期発見のチェック機能構築と、発見後の心理的支援を行える仕組みを貴校独自でつくっていく事が先決かと考えます。
◆対策の切り口として◆
1.影響度を抑える=リスク軽減
2.発生頻度を抑える=リスク低減
3.活動をやめる=リスク回避
4.対策せずに受け入れる=リスク容認
1.影響度を抑える=リスク軽減
2.発生頻度を抑える=リスク低減
3.活動をやめる=リスク回避
4.対策せずに受け入れる=リスク容認
以下は、今年度に報道された2つの事例になります。この報道内容には、性暴力における加害者の特徴がはっきりと示されています。
上記にあげた同一加害者による2つの事案にもあるように、性暴力による「わいせつ事案」の加害者というのは、極めて「再犯性」が高いと言われています。この報道でも本来、模範となるべく管理職の教員が6年という時間を経て、同じ性犯罪で再逮捕されているのです。このような特殊事情が関わる問題であるからこそ、早期発見や未然防止をすることが非常に重要になってきます。
◆教職員不祥事の種別傾向とその対策
報道された教職員の不祥事について、当機構独自に調査をさせて頂いた結果が裏面の表となります。ご覧の通りわいせつ事案が他を圧倒していますが、「個人情報(紛失・盗難など)」に関する不祥事が大幅に増加していることがお分かり頂けると思います。
一方、コンピューターウイルス等で学校機密情報が危険に晒されたという事例は今回の調査の範囲では1件も確認できませんでした。25件の事例のほぼ全てが、教職員の職務規定違反、若しくは、危機意識の希薄さに起因した人災と分類することが出来るかと思います。RKK熊本放送の事案を鑑みると、個人情報の取り扱いが明確に規定されていたにも関わらず発生してしまったトラブルであるということに、フォーカスをあて考えなくてはならないと思われます。
こういった「きまり」のある中で、個人情報が簡単に持ち出されてしまうということは、当該教職員の危機管理力が備わっていないということを示す裏付けになってしまいますし、「きまり」があるだけで、運用ベースに乗っていない状況があると考えることもできます。そして何より大切なのは教職員の意識を根本から見直すことなのかもしれません。この意識とは、クラスや担当部署で取り扱っている個人情報について「私物ではない」という考え方を教職員全体で共有するということです。先生方は時に、担当するクラスや部活動に対して責任を1人で抱え、管理しなければならない立場にあると思われます。愛着という言葉が適切かは分かりませんが、自分のクラスの情報=自分の物、といったような認識に陥りやすく、その背景からこのような問題が多発していると捉えることも出来るのかもしれません。
教職員の不祥事とは個人の問題として発生するものが多いと考えられますが、どの問題も学校全体のリスクへと派生していく可能性があることを忘れてはいけないと思います。教職員を取り巻く環境が複雑になっていることは事実かと存じますが、理性のコントロールと危機管理力を高めながら児童生徒等と正しく向き合える先生が活躍されることを我々は心から願っております。
この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。