不審者対応の危機管理/ 元校長 鈴木彰典
学校リスクマネジメント推進機構の鈴木彰典です。私は過去に校長経験が13年あり、マスコミが注目していた教育困難校の立て直しを任されてきた経歴もございます。このような学校では報道される内容と実情が全く異なることもあるのですが、様々な経験が今の学校現場の支援に活かされていると感じております。
さて、平成13年6月8日に某国立大学附属小学校に不審者が侵入し、多くの児童や教職員が死傷して以降、各学校では様々な安全対策を講じ、不審者対応訓練などを行っていると思いますが、今年3月に某公立中学校の授業中に不審者が侵入し、教職員が負傷する事件が起きました。
そこで、今回のニュースレターは、ある日突然、学校に不審者が侵入して来た場合に備えて、危機管理の観点から大切なことをお伝えしたいと思います。
◆施設・設備の整備
各学校では、日々、施設・設備の点検を行っていると思いますが、点検結果をどのように活用しているでしょうか。
修理・修繕箇所を全職員で情報共有し、迅速に対応しているでしょうか。
危険個所は近づかないように、或いは使用しないように在校生や教職員に周知しているでしょうか。
また、児童・生徒等が登校したら不審者が侵入しにくい環境づくりを図っているでしょうか。
遅れて登校する児童・生徒等や来校者の関係で難しい面がありますが、正門や裏門等から簡単に校内に入ることが出来ないようにしたり、昇降口は限られた箇所しか使えないようにするなど、不審者が不便を感じる対策を講じることが大切です。
さらに、全ての学校の校内に防犯カメラを設置したり、正門はオートロックにするなど防犯対策の強化を図ると、保護者は安心して児童・生徒等を学校に通わせることが出来、学校に対する信頼が深まるようになると思います。
また、多くの小学校の教室には通報装置が設置されているかと思いますが、今後は中学校、高等学校、専門学校等でも設置を検討する時期に来ていると思います。
施設・設備の整備は、資金面から対応出来ることと出来ないことがありますが、学校は児童・生徒等や教職員の命を守り、安心して教育活動に取り組む環境づくりを推進していくことが求められています。
そのため、予算確保のための様々な働きかけも現実として必要になりますが、今一度、校内の施設・設備の状態を確認し、気が付かない箇所や強化する箇所が無いかどうかを確認し、改善に向けて検討してみてはいかがでしょうか。
併せて、校内での情報共有体制を強化することが「いざ!」という時に役に立つと思います。
◆安全指導の充実
学校では、様々な機会を捉えて安全指導を行い、児童・生徒等の危機管理意識の醸成を図っていると思いますが、児童・生徒等の心に響く内容になっているでしょうか。
命にかかわることですので、頭で理解するだけではなく体で覚えるように指導することが大切です。
それでは、どのようにしたら体で覚えるようになるのでしょうか。
大きく分けると2つあると思います。
1つ目は、すぐに出来ることを見つけ、実行することです。
例えば、各学校に「さすまた」が備えられていると思いますが、数に限りがあることと思います。
そこで、使えなくなった箒の柄の部分を教室の隅に置いておき、「さすまた」が届くまで不審者との距離を取ることに活用します。
実際に、教師が演じたりすると良いと思います。
2つ目は、実際の事件を想定した不審者対応訓練などを体験させることです。
その際に、警察にも協力してもらうと、より実践的な訓練を行うことが出来ると思います。
全ての教室で訓練を行うことは難しいと思いますので、ある学級で行っていることをオンライン配信することにより、同時刻に訓練の様子を確認することが出来ると思います。
ここまで、児童・生徒等を対象にしたことを述べてきましたが、教職員の意識の高揚を図ることも大切です。
学校では、朝から放課後まで様々な教育活動を展開しますが、授業中を想定した対策、休み時間を想定した対策、部活動や委員会活動中を想定した対策など、教職員の共通理解を図ることが不可欠です。
今一度、確認してみてはいかがでしょうか。
◆学校・家庭・地域の連携
施設・設備の整備の所では、安全対策の一環として学校のセキュリティを強化することの大切さを述べましたが、実際には限界があると思います。
そこで、どうしたら児童・生徒等の安全を守ることが出来るのかを考えることが必要です。
コロナ禍の学校は、地域との連携を図ることが難しかったと思いますが、コロナが5月8日に5類に移行してからは、特に公立学校では地域との連携が戻りつつあるのではないかと思います。
皆さんの学校は、保護者や地域の方々が児童・生徒等を見守ってくださっているでしょうか。
保護者や地域の方々が学校は敷居が高くて近寄れないという状況は避けたいものです。
働き方改革の観点から、これまで学校が担ってきたことを地域に担っていただくことが示されておりますが、保護者や地域の方々に抵抗なく児童・生徒等の安全を見守っていただけると学校は助かると思います。
そのためには、日頃から、学校の情報を積極的に発信し、コミュニケーションを図る機会を設け、相互理解を深めることが大切です。
お互いを知ることで関係が深まり、関係が良くなり、学校から気軽に頼みやすくなると思います。
※学校における働き方改革に関する緊急対策〔概要〕(平成29年12月26日文部科学省)参照 コロナ禍は、学校の教育活動を見ていただくことを制限していましたが、今は制限を緩めているのではないでしょうか。
安全指導の充実の所でも触れましたが、不審者対応訓練を保護者や地域の方々にも見ていただき、家庭や地域で何が出来るのかを考えていただくと、児童・生徒等を見守る環境づくりが強化されていくと思います。
学校・家庭・地域が一体となれば、安心安全で住みよい街になっていくのではないでしょうか。
◆マニュアルの見直し
各学校では、危機管理マニュアルを作成していると思いますが、マニュアルは改善が図られているでしょうか。
学校には不特定多数の方が来校します。
今まで何も起きなかったから大丈夫と言える方はいないと思います。
マニュアルは少なくても年に1回は見直しを図りましょう。
そのためには、マニュアルに沿った訓練を行ったり、他校で起きたことを自校に照らし合わせたりしながら、実際に見合った内容にすると良いと思います。
◆参考情報
令和5 年6月8日公開の東洋経済オンライン(education×ICT)の 専門家が指摘 「学校のSNS炎上」でやってはいけない対応とやるべき準備とは に私の記事が掲載され、危機発生時の情報整理の仕方や平時のリスク洗出しの資料が掲載されております。
是非参考にしてみて下さい。
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https://toyokeizai.net/articles/-/674106
※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典