児童生徒等や教職員を含めたメンタルケアの重要性
激動の2020年を経験したことにより、本年は何が求められるようになっていくのでしょうか。人がコロナ禍の経験から新しい生活様式を体現したことにより、既存の常識や社会通念は大きく変化したと考えられます。この異常事態に「慣れる」ということは、その異常が平常として一般化されていくということなのかもしれません。これは常識や社会通念はもとより、児童生徒等や保護者の価値観においても同じことが言えるのではないでしょうか。
価値観が変化するということは、表に現れる感情も変化するということです。「他者への不信感」、「不安の慢性化」、「抑えきれない原因不明のイライラ」といった感情的な要素を危機管理の視点で鑑みれば、それ自体がハザードになっているということです。今、クラスの児童生徒等がマスクを常用していないと不安ではありませんか。またソーシャルディスタンス等に代表される新しい生活様式によって、あなたと児童生徒等との距離感も昨年の同時期と比べ全く違うものになったのではありませんか。
更に保護者の学校を見る目も大きく変化したのではないでしょうか。端的に申し上げれば、先生や学校、そして我が子の動きに対して「過敏」に反応するようになったということです。今年は学校と保護者の間で、既存の仕組みや価値観(学則・指導論等)に起因する認識のズレが起こりやすくなると思います。それが基でトラブルが誘発されてしまうことについては細心の注意が必要です。
また、金銭に係るトラブルも予想されます。「昔はこうだったから、、、」「学校の規則はこうですから、、、」等、これまで正論と考えられてきたことが通用しないことも多く想定されます。まずは相手が「何を求めているのか、、、」といった感情の解決に意識を向けると良いと思います。そしてもう1つ、今年特に重視して頂きたいポイントがございます。それは「情報」を自発的に取りに行く姿勢を持って頂きたいということです。
情報の入手先は、オールドメディアだけではありません。ニューメディア(SNS等)や子ども達からの口コミに対しても積極的にアンテナを張っておくことが求められます。今は情報ソースも発信源もこれまで以上に溢れかえっている現状がございます。どれが真実なのかを判別することはより難しくなっているのが現状です。その判断し難い情報に児童生徒等の感情も日々動かされているということの理解が必要です。これは保護者も同じです。
そして、教職員が情報弱者では問題解決にズレが生じてしまう可能性も増えていき、健全な学校運営をしていくことも一層難しくなっていくと思われます。メディアリテラシーを磨き、視野を広げなければ、物事の本質を見失ってしまいます。コロナ禍を経験したことにより、リスクマネジメントの必要性の理解は進んだはずです。学校は子ども達を守るために試行錯誤の毎日を過ごされてきたと思います。
ただし、今年は変わります。この試行錯誤の姿勢を保護者や社会から理解して頂けたのは昨年までなのかもしれません。1年間、新しい生活様式を経験した社会の目は、学校に対し更にもう一段階上の結果を、つまり誰もが納得できる解決策を求めてくる可能性があるのです。異常が平常へと変化していくということはこういうことだと我々は考えています。
¨2020年当機構解決事例¨
コロナで増加傾向の「自死」の事案は最重要課題
当機構は昨年も、学校で発生した様々なトラブルに対し、それぞれの専門領域を駆使しながら全方位的に問題解決にあたらせて頂きました。昨年の傾向を分析しますと、やはりコロナ禍の影響によって発生したと考えられる事案が多くございました。未成熟な児童生徒等が受けた心のダメージは計り知れません。昨年、当機構が支援した事案に生徒が制服を着たまま自ら命を絶ってしまったケースが複数ございました。
これらのケースで我々が1番恐れたこととは、亡くなった生徒の保護者への対応もさることながら、他生徒への動揺が拡大されること、云わば、後追い自殺が発生してしまうリスクについてでした。それを防ぐためには、マスコミやSNSでの拡散に手を打ちながら、現状を把握し、リスクの大きさを評価することです。その上で負担の少ない言葉を使って他生徒へ事実を伝えること、更には専門家を配置したカウンセリング環境を迅速に整備することが大切でした。
別の視点では、亡くなったご遺族の心痛を理解しながらも、臨時保護者会でどこまで事実を開示しても良いのかを確認し、承諾を得なければなりません。時間が経てば経つ程、噂や混乱は拡ってしまいます。言い換えれば迅速さと派生リスクを生まないための正確な対応策の立案・実行が必要な状況だったと言えるでしょう。
このようなことがコロナ禍に振り回された2020年における、実態の1つです。そして今年も更にそのダメージを受け続ける児童生徒等は増え続けると思っています。教員しか気付けないこと、助けてあげられることもきっとあるはずです。今回ご紹介した1つの事例を他人事と思わず、当事者意識を持ちながら今後の指導に活かして頂ければ幸いです。
今年は学校が本気で児童生徒等や教職員を含めたメンタルケアに取り組むことが必要だと思っておりますので直ぐに実行して頂ければと思います。
この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。