3年越しのハードクレームが3日で解決
今回のニュースレターは、ある中学校で3年間にわたり発生していたハードクレームが、私たちのアドバイスにより僅か1日で局面が変わり、その後3日目からクレームがゼロになった事例を共有したいと思います。
実はこのようなケースは意外と多いため、ある学校の成功要因について言及したいと思います(特定を避けるために事例を編集しています)。
◆これまでの状況
ある生徒の母親がこの学校にクレームを言い始めたのは約3年前です。
校長はその間に2回代わりましたが、クレーム問題は一向に解決せず、逆に悪化している状況でした。
主なクレームは生徒の担任が学力の低い娘へ配慮をしてくれないというものでしたが、具体的な要求は次々に増え、収拾がつかない状況が続いていました。学校側は担任の言葉遣いが問題であることは以前から認識していました。
保護者の主なクレームの手段は電話と訪問です。
電話は1回受けると2時間から3時間は当たり前であり、最長では6時間にも及ぶこともありました。訪問については、以前はアポイントを取ることが通例でしたが、最近は突然の訪問が増えていました。
学校側はその度に丁寧に対応していましたが、担当の教頭はかなり疲弊している様子が見受けられました。
さらにこの学校では職員室の電話が鳴ると緊張が走り、誰も電話を取りたがらなくなっていたのです。
校長は真面目で穏やかなタイプでした。教頭は従順で一生懸命なタイプであり、校長とのコミュニケーションを積極的にとっていました。しかし、教頭は解決策が見つからず、日々ハードなクレーム対応を繰り返していたため、私がヒアリングをした際には涙を流すほど疲弊していたのです。
校長は当該保護者が長時間の電話を繰り返したり、アポイントを取らずに学校に突然訪れたりした場合でも、時間を割いて話を聞いていました。
さらに、面談において保護者が生徒を同席させて、一緒に管理職を罵倒する状況もありましたが、校長はただ話を聞いているだけで現状を打破する手段がない状況でした。
このように保護者の言動が一線を越えていても咎めずにいたため、学校の業務が妨害されるばかりか、人格否定の発言まで受け入れてしまう状況が継続していました。このようなことが3年間も続いていたのです。
保護者の特徴としては、声が大きくすぐに感情的になる傾向がありました。
また、学校への要望も非常に多く、生徒の様子を夕方に報告するよう求めていました。
学校側はその要求にも応じていたのです。
一方、保護者は「弁護士に相談してもいいんだぞ」との話を頻繁にしていましたが、具体的な行動には移しておらず、また行政機関への連絡については「事態が大きくなることを避けるために求めていない」とのことでした。
◆主な問題点
① 学校が数年間にわたり保護者の非常識な言動を許容してきたため、保護者は学校に対して何を言っても大丈夫であると学習していること。
(数時間に及ぶ電話も含めて)。
② 学校が数年間にわたり保護者の要望に妥協し続けたため、保護者は苦情を言えば要望が通ることを学習していること。
③ 面談のルールに明確な定めがなかったことから、突然の訪問や暴言を含む面談を容認していたため、保護者は学校の都合や言葉遣いを考慮する必要がないと思っていること。
④ 学校と保護者の間で話し合いの目的やルールが定められず、数年間にわたり終わりのない話し合いが続いていること。
⑤ 主張が次々に増え、論点が定まっていないため、問題がいつまでも解決しない仕組みがあること。
◆解決策のアドバイス
まずは、現在の保護者の反応はこれまでの数年間にわたる学校側のコミュニケーションの方法が招いた結果であることを説明しました。
そして、保護者の特徴についてヒアリングを行い、効果がありそうな戦略をアドバイスしました。
▢効果がありそうな戦略
「これまでのコミュニケーションの方法を変える」
それは、コミュニケーションを変えなければ保護者の反応が変わらないからです。
具体的な戦術:
①保護者に一線を越える脅迫等の違法性がある言動があった際には、その問題は本件とは別の問題になってしまうので、お止めいただきたい旨を毅然と伝えること。
もし、お止めいただけない場合は、学校側の弁護士や警察にも相談せざるを得ないことを併せて伝える。
② 面談や電話などの対応におけるルールを明確に定め、事前に話す内容について制限を設けること。
③ 保護者への対応のルールを伝える際、そのルールに賛同しない場合やルールを守らない場合は話し合いに応じないことを明確に伝えること。
④ 学校側の担当者に対して研修やトレーニングを行い、コミュニケーションスキルと問題解決能力を向上させること。
◆効果
今回特に顕著な効果があったのは、①の戦術でした。
保護者は弁護士や警察への相談をやめるよう求めてきました。
その後、学校として引き続き担任への指導を行うことや、今後の話し合いのルールを毅然と伝えたところ、直ちに納得し、日々のクレームが3日後には完全になくなりました。
今回のケースでは、学校が長年にわたり恐怖心を抱き疲弊し、身動きが取れなかったため、非常識な状況が放置されていました。
当事者はこのような非常識な現状に気付くことができなかったり、気付いても対策まで辿り着けなかったりすることがあります。
そのような場合には、私たちのような第三者の専門家の視点を導入し、実行に移すことで、わずか3日で問題が解決する場合もあるのです。
自校でハードなクレームが解決しない時には「これまでのコミュニケーションを変える」ということを思い出して頂ければと思います。
※今回の事例は保護者と学校のこれまでの対応から心理学的な要素を踏まえて戦略を考えましたので、自校で同様のことを行うと問題が悪化する可能性があります。実行する際は十分にご注意頂ければと思います。
※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。