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生成AIの利活用について / 鈴木彰典 元 校長

学校リスクマネジメント推進機構の鈴木彰典です。私は過去に校長経験が13年あり、マスコミが注目していた教育困難校の立て直しを任されてきた経歴もございます。このような学校では報道される内容と実情が全く異なることもあるのですが、様々な経験が今の学校現場の支援に活かされていると感じております。

 

近年、急速に進化を遂げている生成AIはかつてないスピードで社会に普及しており、その利便性やリスクにより、社会に様々な影響を及ぼしています。今号では、昨年12月26日に文部科学省が公表した「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」)」を参考に、生成AIを学校教育の中で利活用していく上で、留意すべきことをお伝えしたいと思います。

 

◆生成AIについて

生成AIとは、人工知能(AI)の一種で、テキストや画像、動画、音声など、多様なデータを自動的に作成することができるAIです。生成AIは、OpenAI社からChatGPTが公表・リリースされてから急速に社会に普及し、この数年で、文章だけでなく動画像や音声等、異なる種類の情報をまとめて扱えるようになり、人間の反応と遜色ないスピードで応答できるようになっています。

 

◆学校現場における基本的な考え方

学校現場では、人間中心の生成AIの利活用を心掛けることが必要です。生成AIと人間との関係を対立的に捉えたり、必要以上に不安に思うのではなく、人間の能力を補助、拡張し、可能性を広げる有用な道具になり得るものであると捉えると良いと思います。その上で、生成AIの出力は「参考の一つである」「最適解とは限らない」ことを認識するとともに、リスクや懸念を踏まえつつ、最後は人間が判断し、生成AIの出力結果を踏まえた成果物に自ら責任を持つという姿勢が大切です。

 

◆学校現場で押さえておくべきポイント

学校現場では、今後、教職員や児童生徒等が生成AIを利活用する場面が増えていくことが予想されますが、以下のことを押さえておくと良いと思います。

 

1.安全性を考慮した適正利用

  • 関係法令を遵守し、開発者や提供者の想定する範囲内での生成AIサービスの適正な利活用を行う。

 

2.情報セキュリティの確保

  • 学校現場の実態に即した教育情報セキュリティポリシー等の策定や必要に応じた見直しを行い、それらを遵守する。

 

3.個人情報やプライバシー、著作権の保護

  • 個人情報保護法等の関係法令等を遵守する。
  • 個人の著作権を侵害しないように、生成AIと著作権制度について正しく理解する。

 

4.公平性の確保

  • 特定の個人ないし集団への人種、性別、国籍、年齢、政治的信念、宗教等の多様な背景を理由とした不当で有害な偏見及び差別が生じることを避ける。
  • 生成AIの学習データや入力するプロンプト(指示・質問)、連携する外部サービス等によってバイアス(偏見、先入観など)が含まれ得ることに留意する。
  • 公平性を欠くことがないよう、人間の判断を介在させる。

 

5.透明性の確保、関係者への説明責任

  • 利用目的やその態様、リスク等の必要な情報を整理し、関係者に情報提供する。
  • 学校の実態を踏まえ、必要に応じて、教職員、児童生徒等、保護者等への説明の機会や問合せの窓口を設ける。

 

 

 

◆児童生徒等が学習活動で利活用する場面

学習場面における「利活用が考えられる例」や「不適切と考えられる例」には、次のような内容があります。ただし、その適切さは、各学校の実態や児童生徒等の発達段階に即して、適切に判断して頂ければと思います。

 

【利活用が考えられる例】

  1. グループの考えをまとめたり、アイディアを出す活動の途中段階で、一定の議論やまとめをした上で、足りない視点を見つけ議論を深める目的で活用する。
  2. 英会話の相手として活用したり、より自然な英語表現への改善や、一人一人の興味関心に応じた単語リストや例文リストの作成に活用する。
  3. 外国人児童生徒等が理解しやすい翻訳文や、学習内容を補足する図解を生成するなど、日本語学習や学習場面での補助のために活用する。
  4. 自ら作った文章を生成AIに修正させたものを「たたき台」として、自分なりに何度も推敲し、より良い文章として修正したものを提出する際に活用する。
  5. 教科書等の内容を児童生徒等のそれぞれの進度に合わせて理解するために、解説やイメージを出力し、より内容に対する理解を生み出す助けとする際に活用する。

 

【不適切と考えられる例】

  1. 十分な情報モラル教育が行われていない状態で、レポート作成や調べ学習に生成AIを自由に使用させる。
  2. 各種コンクールの作品やレポート・小論文等について、生成AIによる生成物をほぼそのまま自己の成果物として応募・提出する(コンクール等への応募を推奨する場合は、応募要項等を踏まえた十分な指導が必要)。
  3. 詩や俳句の創作、音楽・美術等の表現・鑑賞など、感性や独創性を発揮させたい場面、初発の感想を求める場面等で安易に使わせる。
  4. テーマに基づき調べる場面などで、教科書等の教材を用いる前に安易に利用する。
  5. 教師が専門性を発揮し、人間的な触れ合いの中で行うべき教育指導を実施しないで、生成AIのみに相談させる。

 

◆児童生徒等が学習活動で利活用する場面

生成AIは様々な情報を整理し出力することができますが、学校現場においては、児童生徒等の指導にかかわる業務への支援、学校の運営にかかわる業務への支援、外部対応への支援などが考えられます。

 

【児童生徒等の指導にかかわる業務への支援】

  1. 授業で取り扱う教材や確認テスト問題のたたき台を作成する。
  2. 校外学習の実施行程のたたき台を作成する。
  3. 過去の部活動の練習メニュー一覧を読み込ませ、毎日の練習メニュー案を作成する。
  4. 児童生徒等の生活実態の調査のためのアンケート案を作成する。

 

【学校の運営にかかわる業務への支援】

  1. 時間割・授業時数案を作成する。
  2. 各種お便り・通知文・案内文のたたき台を作成する。
  3. 学校のホームページ掲載文のたたき台を作成する。
  4. 校内研修の資料のたたき台を作成する。

 

【外部対応への支援】

  1. 保護者会・授業参観・面談の日程調整に活用する。
  2. 外部向け講演会の挨拶文のたたき台を作成する。

 

生成AIを利活用することで、教職員の働き方改革につなげていくことが期待されます。「ガイドライン」に生成AIパイロット校における先行取組事例や、学校現場で活用可能な研修教材等が紹介されていますので、参考にされると良いと思います。各学校において、リスクや懸念を踏まえつつ、効果的に活用されますことを願っております。

 


※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。

 編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典

 

 


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