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子供たちを取り巻く環境/ 鈴木彰典 元 校長

学校リスクマネジメント推進機構の鈴木彰典です。私は過去に校長経験が13年あり、マスコミが注目していた教育困難校の立て直しを任されてきた経歴もございます。このような学校では報道される内容と実情が全く異なることもあるのですが、様々な経験が今の学校現場の支援に活かされていると感じております。

 

さて、今、子供たちを取り巻く環境は決して好ましいものではありません。今回の学校リスクマネジメント通信では、子供たちの周りで起きている事例を紹介し、危機管理の観点から子供たちを守るための情報をお伝えしたいと思います。

 

◆インターネット利用に係る犯罪について

GIGAスクール構想により1人1台のパソコンが支給され、今や児童生徒等のほぼ全員がインターネットを利用して検索することが可能になっています。適切に利用すれば問題は無いのですが、誤った利用により犯罪に巻き込まれる児童生徒等の人数が多くなっております。

 

以下、警察庁のデータをご紹介いたします。

 

【児童ポルノ事犯の被害児童数】

令和2年 1,320人 前年比 239人減少
令和3年 1,458人 前年比 138人増加
令和4年 1,487人 前年比 29人増加

令和4年の被疑者は、10代が905人で44.1%を占めています。905人のうち、中学生が215人、高校生が542人、大学生や専門学校 生等が148人で、高校生が最多の59.9%となっております。


SNSに起因する事犯(※)の被害児童数は、令和2年が1,819人、令和3年が1,812人、令和4年が1,732人となっており、令和4年は減少したものの依然として高い水準で推移しております。対象犯罪は、児童福祉法違反、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、青少年保護育成条例違反、重要犯罪等(殺人、強盗、強制性交等、強制わいせつ、逮捕監禁等)となっております。また、令和4年の学識別の被疑者は、小学生が114人、中学生が718人、高校生が833人、大学生や専門学校生等が67人で、中学生と高校生で全体の89.5%を占めております。ここで注目すべきことは、小学生が前年と比較すると37.3%増加していることです。

※SNSに起因する事犯とは、SNSを通じて面識のない被疑者と被害児童が知り合い、交際や知人関係等に発展する前に被害に遭った事犯

 

ここで、SNSに起因する事犯の検挙事例をご紹介いたします。

  • 令和3年8月、被疑者(当時27歳、男)は、SNSを利用して被害児童(当時13歳、女)に裸の画像を送るよう脅迫し、被害児童に裸の画像を撮影させた上、SNSを介してその画像を送信させた。被疑者を強要、児童ポルノ製造で検挙した。
  • 令和4年4月、被疑者(当時18歳、男)は、わいせつ行為をする目的で、SNSを利用して被害児童(当時12歳、男)他1名を誘拐し、自宅においてわいせつ行為を行った。被疑者をわいせつ誘拐罪、青少年保護育成条例違反で検挙した。

 

以上のように、インターネットは非常に便利ですが、使い方を間違えてしまうと犯罪に巻き込まれる危険なものになります。発達段階に応じて、適切なインターネットの使い方を指導し、児童生徒等が犯罪に巻き込まれないようにすることが必要です。学校だけでは犯罪防止を図ることには限界がありますので、家庭への啓発も不可欠です。なお、警察も犯罪防止に向けた取組を行っておりますので、学校・家庭・地域が一体となって子供たちを危険から守ることが求められています。

 

 

◆日本版DBSについて

教職員の不祥事ニュースを検索しますと、教職 員が加害者になる性犯罪等が必ず目に入ります。 被害者は、小学生、中学生、高校生、大学生、成 人と様々ですが、教え子が被害に遭う事案も少な くありません。教員の立場を利用した悪質な犯罪 と言わざるを得ません。


近年、過去に性犯罪等で懲戒免職の処分を受けた教員が他の自治体の教員として教壇に立ち、同様の犯罪行為を行うことが発覚して問題になったことがあります。その際、過去の犯罪行為が他の自治体と情報共有出来ていなかったことが背景にあることが問題になり、この問題を解決するために、イギリスの制度を参考にした「日本版DBS」の導入のための法案(児童対象性暴力防止法)が今年の6月に国会で成立しました。


この法案は、学校や保育所、児童福祉関係の事業者に、その業務に従事させようとする者について、性犯罪事実の該当者であるかどうかを確認する犯罪事実確認義務を負わせます。学校などの事業者は、こども家庭庁を通じて法務省に、就業希望者の性犯罪歴を照会することになります。性犯罪歴が確認された場合、事業者にその就業希望者を採用せず、また現職の教員らには子供と接しない仕事に配置転換するなどの対応を求めることになります。対象となる性犯罪は、不同意性交等などの性犯罪の他、痴漢や盗撮を取り締まる都道府県の迷惑防止条例違反を含み、拘禁刑は刑を終えてから20年、罰金刑以下は10年です。拘禁刑で執行猶予の場合は判決確定日から10年です。また、この法案は、事業者に児童対象性暴力等の防止に努め、児童等を適切に保護する責務があるとしています。そして、被害を早期に把握、防止するために必要な措置、性暴力等が疑われる場合の事実の有無や内容の調査、児童の保護や支援の措置、教員への研修等を義務づけています。


なお、性犯罪歴がない人でも、子供や保護者からの訴えから、性加害の「おそれ」があると認められれば、配置転換などの措置を講じなければなりません。「おそれ」の判断が恣意的に行われる可能性があることから、こども家庭庁は今後ガイドラインを作成し、判断の基準を示すことにしています。「日本版DBS」は2026年度を目途に施行される予定です。

 

◆貧困家庭や孤立家庭の問題について

今年の夏休みに、あるNPO法人の調査結果が発表されました。小学生または中学生の子供がいる貧困家庭のうち、夏休みが「なくてよい」という回答が13%、「今よりも短い方がいい」という回答が47%、合計60%の家庭が夏休みを肯定的に受け止めていない結果となりました。その理由を尋ねますと、

  • 子供が家にいることで生活費がかかるからが78%
  • 給食がなく、子供の昼食を準備する時間や手間がかかるからが76%
  • 子供に夏休みの特別な体験をさせる経済的な余裕がないからが74%
  • 給食がなく、子供が必要な栄養をとれないからが68%

という回答が得られたとのことです。


また、全国の児童相談所への2022年の児童虐待の相談件数は約22万件となり、10年前のおよそ3倍に増えております。子供の虐待の背景には「貧困問題と社会での孤立」があると言われております。経済的に追い詰められると心に余裕が無くなり、子供が言うことを聞かないと、苛立ちが子供に向かってしまうとのことです。また、親戚や近隣の人、或いは友人が助けてくれるな ど、多くの家庭は何らかのサポートを受けると思いますが、虐待に至ってしまう家庭には、何か問題が発生しても頼る人がいません。家庭内で解決できないとストレスとなり、その矛先が子供に向かってしまうとのことです。


目の前にいる児童生徒等は様々な家庭環境で育っておりますが、子供たちを取り巻く環境を改善することが大人に求められているのではないでしょうか。

 

 


※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。

 編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典

 

 


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